Written by Yuki Takemori

蓮の蕾ならビビらないワケ【答:横隔膜のリラックス】

ライフ 回復

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薬指を絡ませることで横隔膜を押し下げる「蓮の蕾」。確かに怖がれなくなるんだけど、どうしてこんなことができるのだろう。いつでもリラックスができるのはありがたいのだけれど、急いでいるときにいちいち指を絡ませているわけにはいかない。手を使わずにできる方法と人に教えて、自分も納得できる方法が知りたいです。

こういった疑問に答えます。

ビビりとは何かと訊かれると「圧倒的に前かがみですね」と答える。多くの人はメンタルトレーニングをしますが、そうではなく、正しくは「恐怖できない姿勢をいつでも取り戻せるようにしておく」が正解です。
仕組みの学習と毎日での実践が本当の胆力になる。

おさらい:蓮の蕾

やり方

  • 1.薬指の根元を十字に重ねる
  • 2.お互いに握るように絡める
  • 3.手首にある親指側のしわと小指側のしわを中指のつけ根に向けて前に出す

猫背でなくなれば出来上がり。

コツ

手首のしわと中指のつけ根が向かいように近づけることがコツです。

なんで心が和らぐの?

いろんなメディアで「蓮の蕾にすると横隔膜が下がって落ち着く」とのことですが、なんでそうなるのかというと、

「人間は恐怖を感じるときに横隔膜が縮み上がりますが、手と指をこの形にすると、横隔膜が縮まないので、結果的に恐怖を感じる条件が満たされないため“怖い”と感じないのです。これは即席の方法で、昔の武士は普段の武術の稽古により、重心が下がって横隔膜が縮みあがらないような動きを身につけていたので、危険な場面でも平然としていられたのです」
※引用:甲野善紀が語る武術的身体の哲学──逆三角形が正解とはかぎらない

横隔膜が上がると恐怖するワケ

浅い息をすることで脳が危機だと判断するから

前かがみで胸がふさがると、浅い息しかできなくなるので、肺に空気を入れようとして、口から大きく、多く呼吸するのですが、これが扁桃体が刺激されることで不安・恐怖や怒りの感情を感じます。

実際に前かがみになることで、

  • 1.背中の拘縮:肩や首が動く範囲が狭くなる→肩が下がらない
  • 2.ストレートネック:首の骨の圧迫による頸動脈の圧迫→脳への血流の低下
  • 3.胸郭の狭窄:横隔膜の硬直→肺の上だけの浅い呼吸

になります。

過呼吸の状態になると、血中の二酸化炭素濃度が下がります。その結果、血管が収縮し、脳に酸素が十分に行かなくなり、酸素不足になった脳は、刺激に反応しやすくなります。そこからさまざまな思考が生まれ、不安に襲われるのです。

そこで感じたストレスによって、口でたくさん呼吸することになります。そのときの脳みそ君は、常に「戦うか、それとも逃げるか」のモードに入っていて、緊張や興奮、不安や恐怖で分泌されるアドレナリンが多く分泌されています。

上手く呼吸ができないことはストレスの特効薬であるコントロール感の喪失になります。それが「状況を制御できている」と決定し認知機能を保ってくれる前頭前皮質がある前頭葉前部が機能不全を起こすのです。

そして残った、「安心・安定・安全」を欲しがる本能をつかさどる扁桃体などの辺縁系と爬虫類時代からある脳幹だけがはたらき、そこに思い通りにいかなかったときの記憶と結びつくことで、人はイラついて怒りだすのです。

医学上は、肩が上がった状態は肋骨を圧迫し、横隔膜が緊張します。すると、横隔膜の収縮が小さくなってしまい、呼吸が浅くなってしまいます。それによる不安感だけでなく、怒りや喜び、悲しみといった激しい感情の起伏を沈める脳内物質の分泌が低下してしまっている状態です。
それで扁桃体の過剰な反応が抑制できなくなるからではないかと考えられます。
この状態にある人間はどんなカウンセリングを受けても解決しません。彼らに必要なことは

  • 背筋を伸ばすこと
  • 鼻で小さく呼吸する

ことで、口で大きく呼吸する習慣を正すことです。

前かがみにして体を緊張させる目的

呼吸量を一時的に多くして急激な動きに備えるため

です。
自分から「戦うか、逃げるか」の状態にすることで、短期のストレスにとても上手に対応できるようになりました。例えばレスリングや相撲の構え、野球の盗塁やバスケのドリブルで前かがみになりますが、棒立ちではない理由がこれです。人間だけではなく、ネズミを借る直前のキツネや、近づいてくる車に身をすくませるネコも同じように体を前かがみになります。これもすぐに動くためです。

前かがみの良いとこ悪いところ

良いところ:素早い動きに備える

  • 狩り
  • 逃げる

共通点としてはどちらを選ぶのかを判断するために「まず止まる」ことです。

肘と膝を伸ばす

ネコがキュウリや近づいて車をみて「まず、すくむ」ことと同じ

  • 屈曲→前かがみ→前面の筋肉の緊張

前面の筋肉はブレーキなので、まず止まると同時に背中の筋肉をゆるめておくのです。

悪いところ:背中の筋肉は抜ける

前に屈む本来の目的は後面(エンジン・アクセル)の筋肉がはたらく準備のためです(発勁など)。それは安心を取りにいくために必要なことです。
とはいえ、脳みそ君は「前かがみ=危機がきた」と処理します。
そのため、普段から

  • 巻き肩
  • 猫背
  • ストレートネック

の人は、前かがみの姿勢と脳の関係のしくみ

  • 前かがみ→危機が来た→爬虫類脳(安心したい)→扁桃体(備えよう)→ストレス反応

から、浅い呼吸をすることでいつも不安や恐怖を感じている状態になっているのです。

「マッチョ」とは何が違うの?

「心を強くするには筋トレが一番」という書籍や動画が本屋やサイトを席巻しているが、こと「心をつくる」においては違うようです。
たしかに、見事に割れはた腹筋など、たくましい見た目になれば自信になりますし、パワーも出るので他人の視線が気にならなくなることも事実です。
とはいえ、実は「心の安定を取り戻す」を基準にした場合、マッチョなボディの代名詞である逆三角形には大きな落とし穴があります。それは、

筋トレによって固めたことが肩の周りの筋肉の緊張になり、その結果肩が上がった状態で固定されてしまう

ことです。これは「怒り肩」というもので、知らない人が初めて見たら「強そう、怖そう」と勝手に思ってくれるかもですが、からくりを知っていれば簡単に相手をパニックにすることができます。

そのからくりとは、犬の肩甲骨のように、肩がいつも上がった状態にあることです。
常に体が恐怖に支配されている状態なので、かつての日本ではそれを「犬腹」と言い蔑みや、嘲笑の対象だったのです。

実は日本の男性が目指し、求められていた姿は、

「肩が下がり、丹田といわれる下腹部が充実した体、というのがかつての日本の男性のあるべき姿でした。また、当時の日本人は武士も農民も、膝を伸ばすということがなく、常に膝を少し曲げ、重心を下にして過ごしていました。そうした体型をもとにした、体のこなし方こそが、かつての日本人特有の持久力や粘り強さの源だったのです。幕末に日本にやってきた外国人たちはみな、車曳きのスタミナや農民のタフさに驚嘆していたといいますから」
※引用:甲野善紀が語る武術的身体の哲学──逆三角形が正解とはかぎらない

なのです。

現実の人間ではこうなる

参考:Alex Douglas

さて、江戸時代の武士の錦絵などを見ると、うにゃうにゃっとした手足に対して丸いお腹がデデンと強調された絵が多く、これが

  • こんな姿になりたくない
  • 欧米人のようなシュッとした体がいい

という声になっているようです。
とはいえ、これは大変失礼な話であり、いうなれば、「体は鍛えたいけどボディビルダーみたいにはなりたくない」と言うことと同じです。

「かつての日本では、“体をつくる”ということは、すなわち心もつくるということでした。武士は時に臨んで狼狽しないようにするために武術を稽古したのですが、それは不測の事態に遭遇しても、自在に対応できるようにするためで、そこでは肩が抜けていることが重要でした。そのために、腹に力を集約させることが必須でした。それゆえ、下腹部が発達し、そして、それにより心も動揺しなくなっていったのです」
※引用:甲野善紀が語る武術的身体の哲学──逆三角形が正解とはかぎらない

実際にお腹に力が集まるようになると、上半身と下半身がつながり、ねじった結果の代償動作で蓄積したダメージによるケガを防ぐなどの体の負担を減らすことができます。

なんで肩が下がるのか

参考:専心良治

巻き肩=肩が前に+内側に入り込んでいる状態

のことです。これが上記の「犬腹」の状態です。

巻き肩で起こる症状

巻き肩になると以下の症状が起きます。

  • 首こり
  • 肩こり
  • 肩の痛み
  • 可動域の制限
  • 呼吸が浅くなる
  • 背中のこり
  • 腰痛(腰の上が痛い)

バレエの教室で「前肩」を注意される理由

バレエでは巻き肩になっていると、「肩が前についている」、「肩を後ろに引いて」とアドバイスを受けます。これは、肩や腰を痛めたり、引き上げ不足で足を痛めることを防ぐためです。

そこで「蓮の蕾」をすることで、

肩甲骨を背骨に寄せる+背筋を伸ばす→肩を正しい位置に持っていきやすい

状態になります。

たしかに、肩を後ろに引こうとしても、手も後ろに行ったり、腰を反ってお腹をつき出す人がいることも事実です。
そこで、引っ張り合いを意識します。引っ張り合いを意識すると肩の位置が直りやすいです。

肩甲骨を寄せる(内転)

  • 背中の上のほうを天井へ引き上げるように
  • 肩を外に持っていく
  • 肩甲骨をちょっと下げて
  • 両肩を外側に一緒に引っ張る

すると肩甲骨を引っ張る力と姿勢を保つ力が釣り合って、肩を正しい位置に持っていくことができます。最初は肩甲骨の寄せと離そうとするのを同時にするといいでしょう。

それだけではなく、上記の横隔膜が縮みあがる根本原因である、肩の上がりをなくすことができます。
特に肩甲骨が頭に近づくことで丸くなっていた背中が真っすぐになることで、肩甲骨を下げることができます。

人は極度の不安や恐怖を感じると身体のバランスを失くすのですが、逆もまた同じで、転ばされた瞬間のようにバランスが取れなくなると恐怖を感じます。

肩が上がると前かがみの姿勢になるのですが、これは体の前側の筋肉を緊張させることと同じです。体の前側、首、胸、お腹に前ももの筋肉は制止するときのブレーキに当たります。眉根を寄せて、しかめ面をするだけでも首が前に出て、体が後ろに下がります。

こうすると、サスペンスで、腰だめで刃物を構え、突進して刺された人と同じ状態になります。このとき体の重心が上にかち上げられるのですがこれは、タワーマンションなどの高層ビルの高い位置が地震によって大きく揺れることと理屈は同じです。

これに対して、肩が下がったことでできる、ゆっくりした腹式呼吸をおこなうと血管が広がるのですが、この現象の仕組みは完全には解明されていません。考えられる説明としては、ゆっくりした呼吸を維持することで体のリラックス反応が活性化し、血液中の気体が正常値になり、その結果として血管が広がるからではないかとされています。

とはいえ、いちいち「蓮の蕾」の手にはできません。ところが「あること」にさえ気が付いてしまえば、手を使わずに同じことができるようになります。
気になる続きは、

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参考資料

参考:専心良治